2018 NPTブログ 第4報「総括」

成果ないまま課題を残して終了

 

54日(金)、ブガイスキ議長(ポーランド)が冷静に「閉会」の宣言をすると、議場でも静かな拍手がおきて、2週間にわたる2020年核不拡散条約(NPT)再検討会議第2回準備委員会が終了した。はたして、2020年のNPT再検討会議に向けて、大きな成果はあったのか。残された課題は何か。日本は「橋渡しの役割」を果たすことができたのか。サイドイベント等の情報を含めて総括した。

 

大きな成果なし

 会議の内容をまとめた議長報告が象徴しているように、準備委員会での議論は概して「想定内」のものが多く、画期的な提言や成果は皆無といってよかった。中東問題や中距離核兵器(INF)の問題をめぐり、特に米ロの間で冷戦時代の再来を思わせるような非難合戦こそあったものの、会議での実質的な議論が盛り上がることもなく、ほとんど時間内か早めにセッションが終わることが多かった。その中で、新たな議論として唯一注目されたのが、核軍縮・不拡散分野において持続可能な発展目標(SDG)とジェンダーの役割であった(短信参照)。また、本会議での低調さと対照して、多様なサイドイベントが開催され、その議論の中身も充実しており、事実上の「トラック2」の役割を十分に果たせるようになっている(短信参照)。

総合すると、全体としての会議の評価は、「ほぼ想定内で、大きな成果はなし」ということになろう。

 

対立は解けず、逆に溝は深まった

 その一方で、解決すべき課題はそのまま解決せずに残された。特に注目されたのが、核保有国/「核の傘」国と非核保有国の対立の解消へ向けて何らかの進展が見られるかどうかであったが、結論から言えば溝はむしろ深まった感が強い。

それを象徴したのが、議長報告をめぐる最後のセッションであった。それまでは比較的批判を抑え気味だった非同盟諸国から、ここにきて「核保有国寄りの報告内容だ」と次々と厳しい批判が相次いだ。核兵器禁止条約をめぐる対立は核兵器国の軍拡路線もあって、対立はさらに深まった感が強い。「核の傘」国による「橋渡し」の議論も多少は評価されたが、対立を溶かすほどの効果はなく、このままでは、対立を残したまま2020年を迎えることになりそうだ。それを避けるためには、今後は「溝を埋める」議論が必要だろう(ブログ第1報、第2報)

具体的論点としては、核兵器と安全保障をめぐる議論が良い例だ。核保有国・「核の傘」国は、悪化する安全保障環境を理由に、核兵器(核抑止)の重要性を強調し、非核保有国は「核兵器の非人道性」から核兵器こそが人類の安全保障の脅威である、と反論する。さらに安全保障と核軍縮の議論を切り離そうとする試みや、核兵器の存在こそが安全保障環境を悪化させる原因だという指摘を行う国もあった。安全保障が悪化しているという共通認識はあっても、安全保障と核兵器をめぐる対立構造はさらに深まった感がある。

もう一つ、2015年再検討会議での合意文書採択を阻んだ原因といわれる、中東問題をめぐる対立も解決されないまま、さらに深刻になった感が強い(ブログ第3報)。

 

再確認されたNPTの重要性と課題

 一方、NPTそのものの重要性、特に核不拡散分野での成果、原子力平和利用の重要性については、ほぼ全参加国の間で再確認され、この点は共通基盤として認められたといってよいだろう。とくにイラン核合意(JCPOA)については、「離脱」の懸念があるトランプ政権に対し、多くの国が合意維持の重要性を強調した。当の米国でさえJCPOAそのものを否定しようとはしなかったことは、JCPOAの維持に希望を持たせるものであった。

 また、1995年、2000年、2010年といった節目の合意文書については、その履行を改めて強調する見解も多く出された。ただ、「中東非大量破壊兵器地帯」への交渉停滞がNPT全体の合意を阻む場面が続いているのを見ると、合意プロセスそのものに対する改革の必要性も意識されるようになってきており、日本をはじめ一部の国から見直しの見解が出された。

 このほか、注目される共通認識として、「市民社会の参加」と「核軍縮・不拡散教育」の重要性である。ここでは、特にサイドイベントで存在感を発揮したNGOや、被爆者団体、若手代表団の存在感が増しており、その重要性を指摘する国が増えていることは、低調な会議の中の「明るいニュース」として注目される。

 

朝鮮半島の非核化

 今回は、北朝鮮問題がやはり多くの課題の中でも最も注目されたものの一つだ。まだ現時点では具体的な方向性が見えないこともあり、北朝鮮の動きに対し慎重な姿勢を取りつつも、南北対話に続き、米朝対話に対する期待を示す国も多く、本会議場でもサイドイベントでも希望が感じられた。特に、サイドイベントでの議論で、注目されたのは「朝鮮半島の非核化」という論点である。北朝鮮の非核化にとどまらず、朝鮮半島の非核化を進めることは、当然ながら「核の傘」をめぐる議論につながる。一部ではあったが、サイドイベントで「朝鮮半島非核兵器地帯」が議論されるなど、南北・米朝対話の機会をとらえて、一気に北東アジアの平和と非核化を達成する動きが活発化するかもしれない。

 

日本の対応は評価が分かれる

 最後に日本政府の対応については、評価が分かれた。「橋渡し役」を具現化した賢人会議の提案、NPTプロセスの見直しのためのワーキンググループ設置など、核軍縮不拡散イニシャティブ(NPDI)の提案が、議長報告にその要点がそのまま含まれた点は、日本外交の成果として一定の評価がされたといえる。一方で、ブラジルのように、明確にこれらの提言を取るに足りないとする意見も出されており、唯一の被爆国でありながら、核の傘に依存する国として核保有国寄りの立場をとる日本に対する評価は分かれたままであった。今後、核軍縮でどのように存在感を高めていくか、課題は残されたままだ。

 

(文責:鈴木達治郎、広瀬訓)

2018-05-04 15.51.56

NPT再検討会議準備委員会会議場、最終セッション閉会の瞬間(5月4日、撮影:RECNA)

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2018 NPTブログ 「短信」②

貴重なサイドイベント:実質的な議論と情報共有

 

2020年再検討会議第2回準備委員会は、いよいよ4日に最終日を迎えた。本会議ではすべての議論を終え、議長による会議の概要報告が採択にかけられた。すでにブログで報じているように、本会議での議論は低調で、特に大きな成果が見られないが(総括は別途ブログ最終回で紹介)、会期を通じて開催されている「サイドイベント」(政府やNGOが主催して特定のテーマで発表や意見交換を行う)は、なかなか盛況である。筆者は、会議後半だけの参加であったが、注目されるサイドイベントについて紹介したい。

 

NPTと北東アジアの危機(4月30日)

 北朝鮮問題については会議場での関心も高く、このサイドイベントは、韓国外務省が英・仏と共催したもので、会場には100人近い参加者を集めた。北朝鮮だけではなく「朝鮮半島の非核化」という合意の意味や、検証の難しさなどが議論された。その中で、注目を集めた発言は、「これは千載一遇のチャンス。この機会を失うわけにはいかない。軍事対立は何としても避けなければいけない」という、パネリストとして登壇した韓国政府高官のものであった。慎重な見方の意見も多く発言されたなかで、この最終的な発言は当事者としての切なる思いを表したものとして、注目された。

 

米ロの核削減、核の脅威削減(5月2日、3日)

 グローバルな核の脅威削減については、ドイツ政府と「核の大幅削減委員会(deep cuts commission)」が主催したイベント(2日)と、米軍備管理協会(ACA)とアイルランド政府が主催した「核の脅威削減にむけた新たなアプローチ」と題するイベントが充実していた。

 前者は、「核の大幅削減委員会」が20184月に発表した提言「トランプ・プーチン両政権に向けて:新たな核軍拡を避けるための措置を」(http://deepcuts.org/news/278-high-level-group-issues-urgent-call-for-trump-putin-to-take-steps-to-avoid-a-new-nuclear-arms-race)をもとに、米・ロ・独の専門家がパネリストとして登壇。米ロの関係が「冷戦終了後最悪の状態」という危機意識をすべてのパネリストが共有していた。

 後者は、核廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長も専門家として登壇し、米軍備管理協会のダリル・キンボール氏とともに、積極的な提言をおこなっていた。なかでも、キンボール氏が提言した「核軍縮サミット」(核セキュリティサミットの成功にならい、有志国が3040か国の首相が集まって、毎年核軍縮課題について議論をするという提言)は、日本としても検討に値するアイデアではないかと思う。

 

非核兵器地帯(5月3日)

 53日には、非核兵器地帯に関するサイドイベントが2つ開かれた。一つは、ミドルベリー大学核不拡散研究センター主催による「非核兵器地帯と包括的核実験禁止条約:朝鮮半島の安定化への示唆」、もう一つが、カザフスタン政府主催で「非核兵器地帯の協力」と題するウィーン軍縮核不拡散センター(VCDNP)の報告についてのイベントであった。

 前者は、朝鮮半島の非核化に際しての核実験禁止の検証について、CTBTOの国際モニタリングセンターの仕組みと、公開されている衛星情報を駆使した監視手法についての発表で、それをもとに「朝鮮半島非核兵器地帯」の提言を行っていた。若い研究者の発表であったが、北東アジア非核兵器地帯にもつながる議論がなされた。

 後者は、すでに設立されている非核兵器地帯間の協力をもっと促進すべきである、との趣旨から、VCDNPが出した報告書(https://vcdnp.org/cooperation-among-nuclear-weapon-free-zones-history-challenges-and-recommendations/)が公表された。カザフスタン政府の積極的な対応が印象的であった。この提言に基づき、すでに成立している非核兵器地帯間の協力が促進されることは、国際社会にとって、そしてこれから非核兵器地帯を設立しようとしている地域にとっても大きな意味を持つと期待される。

 

被爆2世の人権保護(52日)

 52日に開催された、全国被爆2世団体連絡協議会が初めて主催したイベントで、被爆2世、3世の方々の人権保証をうったえる貴重なシンポジウムであった。長崎、広島の被爆2世の方、そして医学的見地から遺伝的影響の可能性についての発表があり、会場からも熱心な質問が相次いだ。遺伝的影響についての検証はなかなか困難を極めているが、それ以上に社会的差別や精神的苦痛の問題をどう解決すべきか。福島事故の避難住民の人権問題にもつながる重要な課題であることを、日本のみならず世界に発信できたことは大きな成果ともいえるだろう。

 

このように、サイドイベントは、重要な課題ごとに政府、専門家、そして市民社会が実質的な議論や情報共有できる貴重な場として、今後も重要な役割を果たしていくだろう。

 

(文責 鈴木達治郎)

2018-04-30 14.03.04

4月30日 「NPTと朝鮮半島危機」パネルで討論するパネリスト(撮影 RECNA)

2018 NPTブログ 第3報

混迷する中東決議の行方

 

 2015年のNPT再検討会議が土壇場で決裂し、最終文書が採択されなかった直接の原因は中東問題であった。これは、1995年にNPTの無期限延長が合意された際に、中東から核兵器を含むすべての大量破壊兵器を撤去し、中東を非大量破壊兵器地帯とするという、いわゆる中東決議が同時に全会一致で採択されていたことが背景にある。2010年には、中東の非大量破壊兵器地帯化へ向けての国際会議を開催するという合意が一度は成立したものの、結局会議は開催されず、中東の非大量破壊兵器地帯構想実現へ向けては、採択から20年以上実質的に何の進展もない状態である。これに対し、中東諸国をはじめとする非同盟諸国からは、1995年の中東決議は、NPTの無期限延長を成立させるための「空手形」だったのではないかという厳しい批判が寄せられている。今回の準備委員会でも、イスラエルの安全保障を前提としない中東の非大量破壊兵器地帯化は非現実的であるとするアメリカ等の主張(http://statements.unmeetings.org/media2/18559674/usa-2018-npt-prepcom_us-cluster-2-specific-issue-statement.pdf)と、1995年の中東決議の即時の実施を主張する中東諸国、非同盟諸国(http://statements.unmeetings.org/media2/18559130/nam-venezuela-english-printer_20180423_100745.pdf)との間の溝はさらに広がっているかのような印象こそあれ、何らかの妥協が成立するようには見えない。

 このイスラエルの非核化の問題に加え、今回の準備委員会では、さらに二つの厄介な問題が持ち上がっている。それはイランとシリアの問題である。イランの核開発疑惑については、これまでもNPTの再検討プロセスにおいてしばしば議論されてきた。しかし、2015年にイランが「包括的共同作業計画(JCPOA)」に合意し、高濃縮ウランの放棄と国際的な監視を受け入れたことで、状況は好転し、一定の解決を見たと評価されている。今回の準備委員会でも、JCPOAを評価し、その着実な履行を求める発言が各国の代表から相次いでいる。

 このような展開に対し、強硬なイスラエル擁護とイランに対する警戒を示すアメリカのトランプ政権の下、アメリカはJCPOAに加えて、さらなる措置の必要性や、イランの弾道ミサイル開発に対する批判を行い(http://statements.unmeetings.org/media2/18559674/usa-2018-npt-prepcom_us-cluster-2-specific-issue-statement.pdf)、イランとの間で激しい応酬を引き起こした。アメリカはJCPOA自体を否定はしなかったものの、JCPOAの枠外でイランが様々な問題を引き起こしており、それが中東や世界の不拡散体制に悪影響を与えていると主張している。これに対し、イランは、自国が忠実にJCPOAを履行しているとして、アメリカの非難は事実無根であり、また、ミサイルの問題はNPTで議論すべき内容ではないとして、真っ向から意見が対立する結果となった。

 また、シリアの問題については、シリアによる核開発疑惑だけでなく、米英がシリアと、シリアを支援するロシアによる化学兵器の使用を激しく非難した(http://statements.unmeetings.org/media2/18559133/usa-2018-npt-prepcom_us-general-debate-statement-copy.pdfhttp://statements.unmeetings.org/media2/18559243/uk-prepcom-general-uk-statement-2018-final.pdf)のに対し、シリアとロシアは、そもそもシリア政府による化学兵器の使用そのものを事実無根であると全面的に否定したうえで、NPTで化学兵器の問題を取り上げることの正当性に疑問を投げかけた。これに対し米英は、化学兵器は大量破壊兵器であり、1995年の決議が中東における核兵器だけでなく、すべての大量破壊兵器を対象としていることから、シリアにおける化学兵器の問題をNPT再検討会議で検討する必要性を主張して譲らず(http://statements.unmeetings.org/media2/18559674/usa-2018-npt-prepcom_us-cluster-2-specific-issue-statement.pdf)、議長の制止を無視して激しい応酬が繰り広げられる一幕もあった。

 2015年に比べて、イランの核合意のような進展はあったものの、アメリカが中東問題に対して強硬な姿勢を取るようになったこともあり、現実の中東情勢が好転しているわけではない。むしろシリア問題をめぐり、中東情勢に関して米ロの関係はより緊迫していると言うべきであろう。そのような状況の下で、2020年の再検討会議で中東問題に関する合意が成立する見通しは暗い。おそらくこのままでは、2015年と同じ展開で、最終文書の採択に失敗する可能性の方がはるかに高いだろう。一部の代表団の間からは、NPTの再検討プロセスをいわば「人質」にして中東問題の打開を図ろうとするアプローチは、NPT体制そのものに悪影響を及ぼすのではないかと危惧する声すら聞こえてくるようになった。確かにNPTの再検討プロセスは、中東の複雑な問題全体を解決するのにふさわしい場であるとはとても言えない。中東の問題を今後どのようにNPT再検討プロセスの中で位置づけてゆくのか、再検討が必要な時期に来ていると言うべきであろう。

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アメリカの批判に反論するイラン代表。4月30日、撮影:RECNA

(文責 広瀬 訓)

2018NPTブログ 短信

短信1

 

 新しい議論

 

 今回の準備委員会では二つの新しい展開が見られる。一つは2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」への言及であり、もう一つは「核軍縮・不拡散とジェンダー」である。

 軍事費と開発援助予算、あるいは教育や福祉の予算を比較し、いかに軍事費が巨大で、それが世界中の人々の生活を圧迫しているかという問題はしばしば指摘されてきた。しかし、特に米露両国が核兵器の近代化や新型の核兵器の開発計画を明らかにし、そのために新たに核兵器関連予算を増やしつつあるという状況に対する反発として、今回の準備委員会では、多くの開発途上国が、SDGs推進には核兵器関連予算の削減が必要であると主張した。国連で採択された開発目標という具体的な枠組みの中で、軍縮の問題をどのように扱うのか、今後の動向が注目される。

 また、今回は核軍縮・不拡散とジェンダーという、目新しい視点に言及する国が大幅に増加した。中満泉軍縮担当高等代表も、425日にオーストラリア、カナダ、オランダおよびスウェーデンの開催した「核不拡散条約と女性」というシンポジウムでスピーチを行い、これまで世界中の平和運動の中で女性の果たしてきた役割には大きなものがあったにもかかわらず、政府間の軍縮交渉においてはまだまだ男性優位であると指摘し、核軍縮・不拡散におけるさらなる女性の活躍を期待する旨を述べた(https://s3.amazonaws.com/unoda-web/wp-content/uploads/2018/04/Izumi-Remarks-at-Women-in-the-Nuclear-Non-Proliferation-Treaty-event.pdf)。

 確かに中満代表をはじめ、アンジェラ・ケイン元高等代表や2015NPT再検討会議の議長を務めたアルジェリアのフェルキ大使、核兵器禁止条約交渉会議の議長だったコスタリカのホワイト大使など、最近の例を見ただけでも核軍縮・不拡散の分野で活躍する女性は珍しくない。市民社会においても核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン事務局長や被爆者として多くの場面で証言を語ってこられたサーロー節子さんなど、核兵器禁止条約の成立へ向けて大きな貢献をした女性の姿が目立つ。しかし、今回の準備委員会でも議場を見渡したかぎり、やはり圧倒的に男性の姿が目立つのも事実である。また、残念なことに日本軍縮学会でも理事会メンバー9名の内、女性はたった一人である。もしそれが女性の持つ潜在力を生かし切れていない結果だとするならば、核軍縮の停滞を打破するためにも、男女を問わずに優秀な人材が核軍縮に積極的に取り組んでくれることを期待するのは当然であろう。

(文責 広瀬 訓)

2018 NPTブログ 第2報

「懸け橋」ではなく「溝」を埋める

 

 2020年の再検討会議へ向けての第2回準備委員会も前半を終了し、またクラスターⅠの議題である核軍縮に関する検討は一応終了した。率直に言って、中身のある議論らしい議論はほとんどなく、シリア情勢やヨーロッパの中距離核ミサイル禁止条約(INF条約)をめぐり、米露の間で冷戦時代と彷彿とさせるような激しいやりとりがあったのを除けば、概して「低調」な一週間であった。

 それでもさらなる核軍縮の推進に関し、まったく手掛かりがなかったわけではない。興味を引いたのは、バチカン市国が「核兵器による平和と安全」は「幻想に過ぎない」と言い切ったことである(http://statements.unmeetings.org/media2/18559134/holy-sea-printer_20180423_101339.pdf)。同様にキューバ(http://statements.unmeetings.org/media2/18559143/cuba-spanish-printer_20180423_101459.pdf)、エクアドル(http://statements.unmeetings.org/media2/18559341/ecuador-final-ecuador-prepcom-tnp-abril-2018-1.pdf)、モロッコ(http://statements.unmeetings.org/media2/18559515/morocco-new-printer_20180426_145808.pdf)等も「核抑止による安全保障」という発想そのものに根本的な疑問を呈し、さらにメキシコは核兵器の存在がむしろ安全保障を損なう要因となっていると指摘した(http://statements.unmeetings.org/media2/18559393/mexico-new-cl-1printer_20180425_172933.pdf)。

これに対し、核兵器保有国および日本のように核の傘の下にある国々は現実の安全保障環境の悪化等を理由に、従来通り核抑止に依存した安全保障政策を変更する意図が無いことを強調している。

しかし、この問題提起に対し、核抑止を肯定するある国の代表は、核抑止が実際に機能しているのか、あるいは単なる幻想なのかは「客観的に証明することは不可能」だとして、核抑止の是非を議論すること自体、所詮は水掛け論であり、不毛だと考える旨を会議後個人的に述べていた。そして、核抑止を肯定する立場としても、決して核抑止が万能だとも、完全だとも考えているわけではないが、まったく効果が無いとも考えていないと付け加えた。確かに核抑止に関し、客観的な根拠が示されないまま、全否定と全肯定で平行線の議論を続けていてもあまり意味は無いであろう。結論としてその代表の方は、対人地雷やクラスター弾の禁止条約を例に、禁止されるべき兵器に替わる手段が存在していたことが交渉を促進した大きな理由だったとして、核抑止に替わる、より信頼できる安全保障の方法が提案されるなら、それこそが本当の意味で核軍縮へ向けての建設的な提案になるのではないかと述べていた。

 確かに説得力のある議論である。しかし、その方も地雷やクラスター弾の場合は、それに替わる兵器が考案されているが、核兵器に替わる、おそらくはより効果的な兵器を開発しようとするのは論外であり、それだけに難しい議論になるだろうし、核兵器禁止条約を支持する国々からも当分の間は核抑止に替わる具体的な提案は出ないだろうと、やや悲観的な見通しを述べていた。確かにその通りかもしれないが、それでは、核兵器国や核の傘の下にいる国々は、果たして核抑止に替わる安全保障政策を検討しているのであろうか。少なくとも核兵器保有国や核の傘の下にある国々から、今回そのような提案がなされた形跡はない。NPT6条に定められている核軍縮へ向けての義務を考えるならば、核抑止に頼らない安全保障政策を策定するのは、核兵器禁止条約を支持する国々だけではなく、すべてのNPT締約国の義務である。仮に百歩譲って「核抑止は信頼できる」という前提を認めたとしても、「核抑止に安住する」ことは、第6条違反だと言わなければならない。

 今回の準備委員会でも、日本を含め、いくつかの機会に「懸け橋」という言葉が使われた。しかし、まさしく「懸け橋」をテーマとして425日に開催された包括的核実験禁止機関(CTBTO)とパグウォッシュ会議主催のシンポジウムで、パネリストとして登壇したアンジェラ・ケイン元軍縮担当高等代表は、そもそも核軍縮と平和をめぐっては「溝があってはいけない」と指摘し、もし溝があるなら、必要なのは溝をそのままにしてその上に橋を架けようとすることではなく、溝を埋める努力をすることであると主張した。今NPT6条を実現するために必要なのは、「核抑止を否定するなら、それに替わる代案を出せ」という議論ではなく、核抑止を否定する国も、肯定する国も区別せずに、核抑止を超える、核兵器を必要としない安全保障とはどのようなものなのかという議論を始めることであり、それこそが本当の意味での建設的な「溝を埋める」議論だと言えるのではないだろうか。

(文責 広瀬 訓)

2018 NPT Blog 第1報

「共通の基盤」はどこに?

 423日から始まった2020NPT再検討会議第2回準備委員会は、各国が自国の基本的な立場を説明する一般討論と、NGOによるセッションを終え、25日の夕方から核軍縮に関する具体的な意見の交換に入ったところである。

 会議の冒頭、中満泉軍縮担当国連上級代表は、昨今の世界情勢を、まさしく世界が核兵器をめぐる緊張を打開するために、NPTを必要とした50年前の緊迫した情勢と比べてみせた(https://s3.amazonaws.com/unoda-web/wp-content/uploads/2018/04/USG-HR-Statement-to-Second-Session-of-the-Preparatory-Committee-in-Geneva2.pdf)。その指摘を受け、新アジェンダ連合(NAC)を代表し、ニュージーランド代表は、核軍縮・不拡散が「振出しに戻った」と言われかねないほどの後退の危機に瀕しているのではないかと深い懸念を示した(http://statements.unmeetings.org/media2/18559390/new-zealand-behalf-nam-nam-printer_20180425_173027.pdf)。さすがにそれはいささか悲観的に過ぎるのではないかと思えるが、ここ三日間の議論を傍聴しただけで、総論、各論共に様々な意見の対立が相次ぎ、議論がどちらへ向けて進もうとしているのか、方向性が見えないままである。

 まず核兵器禁止条約をめぐっては、予想通り米英仏が悪化しつつある安全保障環境をまったく無視したものであるとして、断固拒否するという姿勢を明確にした。それに対し、核兵器禁止条約を推進してきた国々は一致して核兵器禁止条約はNPT6条の核軍縮の義務を具現化するものであり、NPTを補完するものであると主張し、核兵器禁止条約がNPT体制を阻害するのではないかとの懸念を否定した。さらに、核兵器禁止条約を支持する国々からは、核兵器禁止条約は現時点では未完成であり、ただちに包括的核実験禁止条約(CTBT)や、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、非核兵器地帯に替わるものではないとして、このような従来からの軍縮交渉を継続、強化する必要性を再確認する意見も出された。核兵器禁止条約をめぐる対立を回避しようとする努力が、主に支持国の間で広がっているようで、そういった国々の核兵器禁止条約に関する言及は控えめである。また、核兵器禁止条約の採択で一段落したということなのか、核兵器の人道的な側面に関しても、ひと言言及するだけに止める国が多く、かつてのように議論の中心となるよう展開は生まれていない。これまで核兵器廃絶へ向けての議論をけん引してきた非同盟諸国、新アジェンダ連合、人道アプローチを支持してきた国々とも、新しい提案や踏み込んだ問題提起は無く、総じて従来からの一般論にほぼとどまっている。

 河野外務大臣が紹介した賢人会議の勧告については、各国から一定の関心を持って受け止められた。その具体的な内容については、米国ジェームズ・マーチン不拡散研究所のウィリアム・ポッター所長が、「核軍縮に関しまったく新しい概念を提案しているわけではない。むしろ勧告されている内容をどのように実現してゆくかがより重要だ。」と、日本政府主催のシンポジウムでの指摘はその通りであり、今後の日本政府の動きが注目されることになるであろう。         

 具体的な議論としては、やはりほとんどの国が北朝鮮の問題を取り上げた。日本を含め多くの国は北朝鮮による核兵器および弾道ミサイルの開発と実験を非難した。しかし、北朝鮮による核実験の停止宣言や南北首脳会談、米朝首脳会談の開催を念頭に、その推移を見守るべく、一定の期待を表明しながら、あえて深入りしようとしない国がほとんどであった。そのような中で、河野太郎外務大臣が国際社会による「最大限の圧力」に言及したことが目立つ程度である。しかし、少数ではあるが、北朝鮮の問題は北朝鮮を非核化することではなく、朝鮮半島あるいは東アジアの非核化、非核地帯の設立こそが解決策であると指摘した国々(ノルウェー、ロシア、ルーマニア等)もあり、特にロシアが北朝鮮の核問題の解決には包括的なアプローチが必要であると指摘した(http://statements.unmeetings.org/media2/18559211/russia-printer_20180424_105255.pdf)。NGOセッションにおいても、ピース・デポの山口大輔研究員が具体的にRECNAとノーチラス研究所が行った包括的アプローチ提案を紹介し、包括的な解決策の必要性を訴えた(http://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/npt/prepcom18/statements/25April_PeaceDepot.pdf)。

 もう一つの具体的な論点としては、やはり中東の問題に多くの時間を割く国が多数に上った。従来からのイスラエルの問題は当然として、今回は中東の「非大量破壊兵器地帯」化という観点も含めて、シリアにおける化学兵器の使用疑惑に絡んで、これを非難する米英仏等と、否定するロシア、シリアとの間で繰り返し激しい応酬があり、議事の収拾に議長団が苦労する一幕もあり、今後の議論の進行に不安を抱かせる幕開けとなった。

(文責:広瀬 訓)

2018 NPT Blog 第「0」報

 

 20184月23日(月)~54日(金)、2020NPT再検討会第2回議準備委員会がジュネーブ(スイス)にて開催される。RECNAでは、教員2名(広瀬、鈴木)が現地から、会議の概要や重要課題について報告する「NPTブログ」を今年も実施する。

 

 今年は、2017年に核兵器禁止条約が採択されて初めての準備委員会となる。また直後の514日-16日には国連ハイレベル核軍縮会議が開催されるという状況の中での準備委員会となる。画期的な成果はあまり期待できないのではないかというやや悲観的な観測が流れているが、北朝鮮問題や米国の新「核態勢の見直し」など、核の脅威が高まりつつある中、2020年にむけて、核兵器国や「核の傘」国と非核保有国が、核軍縮・不拡散に向けてどのような主張を繰り広げるかが注目される。

 

 会議が始まる前の第「0」報として、今回の準備委員会で注目すべき点を簡単にまとめてみた。

 

1.核兵器禁止条約をめぐるギャップは広がるか、共通基盤を見つけるか:

まずは、核保有国・核の傘国と非核保有国が、核兵器禁止条約に対し、どのような主張を打ち出すかが注目される。核兵器禁止条約とNPTは、補完的であり、決して条約間で矛盾やギャップがない、と考えるのか、それとも禁止条約はNPTに悪い影響を与えるものと考えるのか。今回の準備委員会で、どのような見解が示され、参加国の間で、共通基盤が見えるようになるかどうかが注目される。

2.核の脅威削減への道筋はみえるか:

2番目に注目されるのは、核兵器国の核軍縮に対する姿勢にどの程度変化が現れるかだ。米国の「核態勢の見直し」はむしろ、核兵器の役割増大、核使用のリスクを高める方向に変化した。これはNPT6条の核軍縮違反ではないか、という批判も聞かれるかもしれない。しかし、準備委員会を前に、核兵器国(P5)間でどのような対話が行われ、それが核の脅威削減に向けて具体的な提案につながるかどうかが注目される。

3.「核の傘」国で禁止条約への意見は分かれるか:

次に注目されるのが、核の傘に守られている同盟国の主張である。同盟国は、これまで禁止条約に対し一様に否定的な見解を示してきているが、一部の国では、核兵器禁止条約への参加についてその是非が検討され始めている。そういった国から、核兵器禁止条約への肯定的な意見が出される可能性もあり、「核の傘」国の間での意見の相違にも注目したい。

4.禁止条約推進国の批准は進むか:

核兵器禁止条約の採択には122か国が賛成したが、3月末現在、57か国が署名、批准は7か国にとどまっている。非核保有国の中でも、禁止条約への署名や批准がなぜ進まないのか、あるいは会議中に批准に向けての動きが加速するのか。非核保国の動きにも注目したい。

5.北東アジア、中東等、地域の安全保障問題への対応は:

北朝鮮問題や、2015年の再検討会議決裂の理由とされた中東問題などをめぐる議論は、やはり2020年に向けて重要な課題といえる。南北朝鮮の対話や米朝対話に対し、どのような期待や対応が示されるのか。イランの核合意(JCPOA)や、中東、北東アジアにおける非核兵器地帯設置に向けての動きなどが、注目される。

 

最後に、日本の対応である。核兵器国と非核兵器国の「橋渡し役」として、どのような主張をするのか。そのために設立させた「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」提言をどう活かすのか。唯一の戦争被爆国として、どのような核軍縮外交を行うのかはやはり注目しなければいけない。

 

(文責:鈴木達治郎)

 

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2018NPTブログは、RECNA教授陣(広瀬訓、鈴木達治郎)が、週12回程度の頻度で、核軍縮・不拡散・原子力平和利用について、重要と思われる動きについて報告を行う。