2018 NPT Blog 第1報

「共通の基盤」はどこに?

 423日から始まった2020NPT再検討会議第2回準備委員会は、各国が自国の基本的な立場を説明する一般討論と、NGOによるセッションを終え、25日の夕方から核軍縮に関する具体的な意見の交換に入ったところである。

 会議の冒頭、中満泉軍縮担当国連上級代表は、昨今の世界情勢を、まさしく世界が核兵器をめぐる緊張を打開するために、NPTを必要とした50年前の緊迫した情勢と比べてみせた(https://s3.amazonaws.com/unoda-web/wp-content/uploads/2018/04/USG-HR-Statement-to-Second-Session-of-the-Preparatory-Committee-in-Geneva2.pdf)。その指摘を受け、新アジェンダ連合(NAC)を代表し、ニュージーランド代表は、核軍縮・不拡散が「振出しに戻った」と言われかねないほどの後退の危機に瀕しているのではないかと深い懸念を示した(http://statements.unmeetings.org/media2/18559390/new-zealand-behalf-nam-nam-printer_20180425_173027.pdf)。さすがにそれはいささか悲観的に過ぎるのではないかと思えるが、ここ三日間の議論を傍聴しただけで、総論、各論共に様々な意見の対立が相次ぎ、議論がどちらへ向けて進もうとしているのか、方向性が見えないままである。

 まず核兵器禁止条約をめぐっては、予想通り米英仏が悪化しつつある安全保障環境をまったく無視したものであるとして、断固拒否するという姿勢を明確にした。それに対し、核兵器禁止条約を推進してきた国々は一致して核兵器禁止条約はNPT6条の核軍縮の義務を具現化するものであり、NPTを補完するものであると主張し、核兵器禁止条約がNPT体制を阻害するのではないかとの懸念を否定した。さらに、核兵器禁止条約を支持する国々からは、核兵器禁止条約は現時点では未完成であり、ただちに包括的核実験禁止条約(CTBT)や、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、非核兵器地帯に替わるものではないとして、このような従来からの軍縮交渉を継続、強化する必要性を再確認する意見も出された。核兵器禁止条約をめぐる対立を回避しようとする努力が、主に支持国の間で広がっているようで、そういった国々の核兵器禁止条約に関する言及は控えめである。また、核兵器禁止条約の採択で一段落したということなのか、核兵器の人道的な側面に関しても、ひと言言及するだけに止める国が多く、かつてのように議論の中心となるよう展開は生まれていない。これまで核兵器廃絶へ向けての議論をけん引してきた非同盟諸国、新アジェンダ連合、人道アプローチを支持してきた国々とも、新しい提案や踏み込んだ問題提起は無く、総じて従来からの一般論にほぼとどまっている。

 河野外務大臣が紹介した賢人会議の勧告については、各国から一定の関心を持って受け止められた。その具体的な内容については、米国ジェームズ・マーチン不拡散研究所のウィリアム・ポッター所長が、「核軍縮に関しまったく新しい概念を提案しているわけではない。むしろ勧告されている内容をどのように実現してゆくかがより重要だ。」と、日本政府主催のシンポジウムでの指摘はその通りであり、今後の日本政府の動きが注目されることになるであろう。         

 具体的な議論としては、やはりほとんどの国が北朝鮮の問題を取り上げた。日本を含め多くの国は北朝鮮による核兵器および弾道ミサイルの開発と実験を非難した。しかし、北朝鮮による核実験の停止宣言や南北首脳会談、米朝首脳会談の開催を念頭に、その推移を見守るべく、一定の期待を表明しながら、あえて深入りしようとしない国がほとんどであった。そのような中で、河野太郎外務大臣が国際社会による「最大限の圧力」に言及したことが目立つ程度である。しかし、少数ではあるが、北朝鮮の問題は北朝鮮を非核化することではなく、朝鮮半島あるいは東アジアの非核化、非核地帯の設立こそが解決策であると指摘した国々(ノルウェー、ロシア、ルーマニア等)もあり、特にロシアが北朝鮮の核問題の解決には包括的なアプローチが必要であると指摘した(http://statements.unmeetings.org/media2/18559211/russia-printer_20180424_105255.pdf)。NGOセッションにおいても、ピース・デポの山口大輔研究員が具体的にRECNAとノーチラス研究所が行った包括的アプローチ提案を紹介し、包括的な解決策の必要性を訴えた(http://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/npt/prepcom18/statements/25April_PeaceDepot.pdf)。

 もう一つの具体的な論点としては、やはり中東の問題に多くの時間を割く国が多数に上った。従来からのイスラエルの問題は当然として、今回は中東の「非大量破壊兵器地帯」化という観点も含めて、シリアにおける化学兵器の使用疑惑に絡んで、これを非難する米英仏等と、否定するロシア、シリアとの間で繰り返し激しい応酬があり、議事の収拾に議長団が苦労する一幕もあり、今後の議論の進行に不安を抱かせる幕開けとなった。

(文責:広瀬 訓)

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